スマホやパソコンでアクセスするネット社会は、様々な人が集まる多様な空間に見える。だが現実に見えるのは、同じような好みや価値観を持つ人が寄り添っている狭い空間だけだ。
前回の記事『「多数派」性格の発覚 -同じ価値観を持つ人が群れるリスク』では性格と行動パターンに4種類の多数派があると示した。ネット社会の裏側に陣取るAIは、ネット利用者の足跡データから、どの多数派なのか判定する。
ネット社会の裏側を知る人たちは、AIの判定と多数派の特性を使って、ネット利用者を餌食に利益を上げている。
本記事では、こういったネットの仕組みの裏側を考察する。
| ネット社会が暴く心の闇と、その克服シリーズ④ | ネット社会のハンター | 松浦 公政 | 2026年 | |
| こんな方へ | AIが、ネット利用者の性格や行動パターンをどうやって見抜くかに興味がある方 | |||
| ネット広告システムがもたらす功罪に興味がある方 | ||||
| 平均的な人/保守的な人/自己中心的な人/模範的な人 の購買行動の違いに興味がある方 | ||||
記事の音声解説付き(下のプレイボタンで解説開始)
自分が欲しい情報や商品がネットでおススメされる原因
ネットを利用すると、なぜか「自分が興味ある記事」が多く配信されたり、なぜか「自分が欲しくなるような商品やサービス」がおススメされる。
デジタル心理学が発見した「同じクラスターの人は、似たような好みを持ち、価値観が近い」という特徴を、視点を変えて見ると次が分かる。
| クラスターによって、求める「情報」に偏りがある。 |
| クラスターによって、求める「商品」「サービス」に偏りがある。 |
かゆい所に手が届くように自分が欲しい商品や情報がネット上で提供される理由は、あなたの性格・嗜好を把握しているネット企業(SNS運営会社やネット通販会社)が、あなたの嗜好に合わせた記事・商品・サービスなどの情報を提供して来るから。
この発見をネット企業の立場から見ると ⇩
ネット企業がクラスター民を「ありがたい」と思う理由は大きく二つある。
| ありがたい理由 | あるクラスターの誰かが好きな情報は、他のクラスター民も好きだから、同じ記事や動画をおススメすれば興味深く見て(読んで)もらえて閲覧数が増える。閲覧数が多い記事は広告掲載希望が集中するため、人気記事を配信するほど広告掲載希望の企業から広告掲載費を稼げる。 |
| あるクラスターの誰かが好きな商品やサービスは、他のクラスター民も好きだから、同じ(または類似の)商品やサービスをおススメすれば高い確率で売れる。 |
ネット上で売る商品を製造/販売する企業にとっての経済的なメリットは、莫大なカネをかけて市場調査をしなくて済むし、広告を届ける相手が限定できて広告費も安上がりで済む(=広告コストが下がる)こと。
クラスターと名付くほど多数派の性格パターンは、該当者数が多い分コストダウン効果が大きい。
ネット企業はクラスター民の行動パターンを読み切る
デジタル・サイコメトリクスを応用したAIは、どのように利用者の究極の個人情報である「性格パターン」を見抜くのか。この疑問に答えようと、心理学者ゲルラッハが見つけた4種のクラスター(=該当者が多い性格パターン)を取り上げ、AIがどのように利用者の性格パターンを見抜き、分類しているかを生成AIに調査させた。
生成AIは、これまでにネット上に公開されている論文・記事・投稿などを大規模に走査し、ネット企業(SNS運営会社やネット通販会社)のAIが分析した「性格パターンを分類する典型的な判断基準」を推測した。
以降で示す情報(アルゴリズム)は、AIが調べて推測した性格パターンを分類する判断基準の「典型」あるいは「公約数」だ。どこか特定のネット企業の判断基準ではないが、どの企業の判断基準とも似ているだろう。
クラスター民の典型的な反応
ネット企業は、利用者の足跡のビッグデータの分析から、次の状況での各クラスター民が採る典型的な反応を熟知している。
| 反応を見る状況の例 | アベレージ | リザーブ | ロールモデル | セルフセンター | |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 感情的な煽り記事(近隣国嫌い、スキャンダル等)に反応するか? | ◎ | ❌ | ❌ | ⭕️ |
| 2 | 「期間限定」「あなただけ」という広告に弱いか? | ⭕️ | ❌ | ❌ | ◎ |
| 3 | 新機能のベータ版や、誰も知らない技術記事をシェアするか? | ❌ | ❌ | ◎ | ⭕️ |
| 4 | 5年以上、同じサービスの同じ設定を使い続けているか? | ⭕️ | ◎ | ⭕️ | ❌ |
| 5 | 「売上No.1」「満足度98%」という数値を意思決定の根拠にするか? | ◎ | ⭕️ | ❌ | ❌ |
| 6 | 自分の成果や持ち物を誇示するような投稿を頻繁に行うか? | ❌ | ❌ | ⭕️ | ◎ |
| 7 | 批判的なリプライが並んでいる投稿に対して、沈黙を守るか? | ⭕️ | ◎ | ⭕️ | ❌ |
| 記号の意味 | ◎ | 非常に高い確率で該当 | |||
| ⭕️ | 該当する傾向がある | ||||
| ❌ | ほとんど該当しない | ||||
ネット企業は、前述の特定の状況における反応を見て、その利用者がどのクラスターに属するか判定する。
| クラスター | 傾向 | AIの判定と裏側の評価 |
|---|---|---|
| アベレージ | 不安と同調 | 判定「大衆操作への脆弱性を持つ層」 |
| ゲルラッハの定義では「神経症的傾向(不安)」がやや高め。そのため、集団の敵を作るような煽り記事に対し、「みんなが怒っているから自分も同調しなきゃ」という防衛本能や、社会的な不安からリアクション(いいねや拡散)を返しやすくなる。 | ||
| リザーブ | 安定と回避 | 判定「ノイズに強いが、能動的な消費も少ない層」 |
| 外向性が低く、争いや変化を嫌う。過激な内容を目にしても、「関わりたくない」という心理が働き、無反応(スルー)を決め込む。 | ||
| ロールモデル | 誠実と自律 | 判定「高LTV(ライフタイムバリュー)な良質利用者層」 |
| 誠実性と情緒安定性が高く、感情的な煽りには極めて冷静。「この記事のソースはどこか?」「社会に悪影響はないか?」を無意識に判断し、安易な「いいね」を自分に許さない。 | ||
| セルフセンター | 刺激と自己顕示 | 判定「深く考えず刺激的なコンテンツを好む層」 |
| 外向性が高く、協調性が低いため、単純に「スカッとする」「注目を集める」刺激的なコンテンツを好む。深く考えずに「面白いから」という理由で、過激な投稿を拡散する傾向がある。 |
クラスター民の典型的な購買行動
利用者の購買行動は、AIが「利用者の欲望と理性のバランス」を最も正確に測定できる領域。何を買うかという「結果」以上に、「どのような検討プロセスを経て決済に至ったか」というログが、クラスター判定の決定打となる。
ネット企業は、『最も断りづらい誘惑』を設計しようと、AIに利用者の購入ボタンを監視させる。
| 観測される購買行動例 | アベレージ | リザーブ | ロールモデル | セルフセンター | |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 「期間限定・残りわずか」という煽りに反応して即決するか? | ⭕️ | ❌ | ❌ | ◎ |
| 2 | 価格が高くても「環境負荷」や「企業の理念」で選ぶか? | ❌ | ❌ | ◎ | ❌ |
| 3 | 過去に一度も聞いたことがない新興ブランドを予約購入するか? | ❌ | ❌ | ⭕️ | ◎ |
| 4 | 定番商品やロングセラー商品を、常に同じ店で購入し続けるか? | ⭕️ | ◎ | ⭕️ | ❌ |
| 5 | レビュー欄で「星1つの低評価」を細かく読み、欠点を確認するか? | ❌ | ⭕️ | ◎ | ❌ |
| 6 | ポイント還元率やクーポンを執拗に計算してから購入するか? | ◎ | ⭕️ | ❌ | ❌ |
| 7 | 決済直前に「おすすめ(あわせ買い)」された商品をカゴに入れるか? | ◎ | ❌ | ❌ | ⭕️ |
| 記号の意味 | ◎ | 非常に高い確率で該当 | |||
| ⭕️ | 該当する傾向がある | ||||
| ❌ | ほとんど該当しない | ||||
ネット企業がAIを使って、ECサイトの回遊ログや決済データを分析して利用者の購買行動パターンを判定するシグナルと、そのシグナルに応じた誘惑方法の例。
| クラスター | 傾向 | 分析シグナル | AIの判定・アクション |
|---|---|---|---|
| アベレージ | 失敗への不安と損得勘定 | 複数の比較サイトを往復し、最後は「最も売れている」という安心感で決断。ポイントやセールのカレンダーに最も忠実に動く。 | 判定「外部情報のコントロールが容易」 |
| タイムセールやポイント倍増キャンペーンの通知をベストタイミングで送り、購買を「習慣化」させるターゲットとなる。 | |||
| リザーブ | 失敗の回避 | 「いつもの」買い方が基本。新規サイトでの会員登録を極端に嫌い、Amazon Payなどの既存インフラを好む。 | 判定「変化を嫌う安定志向」 |
| 新しい提案(クロスセル)をあえて控えることで、解約や離脱を防ぐ「守り」のおススメを適用する。 | |||
| ロールモデル | 価値の審美眼 | 広告を介さず、特定の指名検索や専門サイト経由で流入する。 | 判定「流行よりも本質的な価値を重視する」 |
| 安売り広告ではなく、開発秘話や技術スペックを詳細に記した「重厚なコンテンツ」をぶつけることで、高いロイヤリティを築こうとする。 | |||
| セルフセンター | 優越感の追求 | インフルエンサーのリンクからの直行購入や、SNS映えする新製品への飛びつきが顕著。 | 判定「承認欲求と衝動性」 |
| クーポンよりも「先行販売」「会員ランクアップ」といった、他者より優位に立てることを示唆するメッセージで出費を促す。 |
まとめ:ネット利用者は性格が筒抜けだと自覚すべき
スマホやパソコンに「自分が興味深い記事」や「欲しくなるような商品情報」が届く方は、性格や好みという究極の「個人情報」がネット企業に筒抜けで、ネット企業が掘った落とし穴に捕まっている、と自覚した方がよい。
この落とし穴の中は利用者にはとても便利で、落とし穴から脱出するには、スマホやパソコンでSNSサイトや通販サイトにアクセスしているアカウント(Google Account やメールアドレスなど)の使用をきっぱり止めるしかない。
多分ほとんどのネット利用者が便利な落とし穴に捕まったまま、抜け出さない(抜け出せない)状況にいる。
次回の記事では「ネット社会がもたらす光 -性格類型の研究が明らかにしたこと」を考察します。
シリーズ総合目次は、ここをクリック。
| 参考文献類 | ||
|---|---|---|
| 作者 | タイトル | 発刊/制作年 |
| Martin Gerlach, et al. | “A robust data-driven approach identifies four personality types across four large data sets (Nature Human Behaviour)“ | 2018 |
| Kosinski, M., Stillwell, D., & Graepel, T. | “Private traits and attributes are predictable from digital records of human behavior“ | 2013 |
| ショシャナ・ズボフ | 『監視資本主義 人類の未来を賭けた闘い』 | 2019(原著) 2021(日本版) |

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