親が子を殺すとき -子殺しを進化論で考える

継の和
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親が子供を虐待したり殺したりという事件は後を絶たない。
そういう事件のニュースを聞けば誰しも痛ましく感じ、反社会的行動をした親には非難が集まる。
しかし、動物の生態を観察すると、親の子殺しや虐待は、哺乳類が持つ宿命に見える。

親が子を殺すとき -子殺しを進化論で考える 松浦 公政 2022年
対象読者
幼児虐待や子殺しが起きる本質原因に興味がある方
世界の多くが父系社会である理由に興味がある方
幼児虐待や子殺しが減る社会のカタチに興味がある方

哺乳類社会の子殺し

すべての生物には、自分が属する種族(我々なら人類)を存続させようとする生殖本能(種保存の本能)が備わっている。
生殖本能に基づいて、生物の個体(我々の個々人)は、自分の遺伝子のコピーを増やす方法を最大限追及するよう行動する(この行動の動機を「繁殖本能」と呼ぶことにする)。
  遺伝子のコピーを増やそうと繁殖行動しない生物は、すべて絶滅してきた。
ところが ⇩
哺乳類では、繁殖本能に突き動かされた行動の結果、(生殖本能から見ると逆説的な)血縁関係がない『子殺し』は珍しくない。
  哺乳類のメスは、授乳中は排卵・発情しないようなホルモンが出て交配を抑止し、繁殖過多で栄養が行き渡らずに産まれた子供が全滅するリスクを回避するメカニズムを持つ。
だが ⇩
哺乳類のオスは、自分の遺伝子を次世代にたくさん伝えよとの繁殖本能の要求を受けて、できるだけ多くのメスに自分の子を産ませようと行動する。
  大半の哺乳類社会の婚姻形態は、一夫多妻(一部のオスが多数のメスを配下に置くハーレムを形成する)か雑婚(繁殖パートナーを随時決定する)を採る。
現代の人類社会はほぼ一夫一妻だが、哺乳類業界では珍奇で、おそらく進化の過程で様々な婚姻形態を試行錯誤しながら現在の婚姻形態に辿り着いたと見られる。
人類が属する霊長類の他の種(=遺伝子が近くて近縁の哺乳類)の婚姻形態を分析した報告によると、一夫一妻、一夫多妻、雑婚などが混在しており、婚姻形態は確立していない。
たとえば、一夫多妻型の哺乳動物社会の場合、ハーレムの乗っ取りが起こると、現夫は授乳中の妻が育てる前夫の子を奪い取って殺す(殺害は暴力的で残虐な手段が多い)。
子殺しする目的 ⇩
現夫による前夫の子殺しの狙いは、妻の授乳を絶つことで発情を引き出し、受胎可能な身体状態にした妻と交配して自分の遺伝子を次世代へ伝えること。
人類のメスは、授乳中も偽発情(排卵なしで性交)してオスの繁殖欲求を受け流す機能を持ち、子殺しリスクを低減する対策を施している。
ただし ⇩
人類のメスが偽発情でオスの子殺し欲求を抑止しても、子連れ再婚する家庭で児童虐待や子殺しが起きやすい。
  児童虐待は、実親子より義親子の間だと、何倍も多い(アメリカは7倍、カナダは40倍 …規模の違いは単に国ごとの虐待の定義の違いに起因するので、本質的にはアメリカもカナダも差はない)
  子殺しの被害者の年齢は0歳児が最多で、子供の年齢増加とともに被害者数は次第に減る。
子連れ再婚する家庭での子殺しの実行者は継父とは限らず、新しい繁殖パートナーが出来ると、実母による自動虐待や子殺しは増える。
  人類は、他の動物と比べると完成度が低い状態で子を出産するように進化したため、誕生後の養育コスト(栄養補給・世話・教育など)が大きい。
  育成には大量の養育資源(手間・情・金銭)が必要で、親が何十人も養育できない結果、育成対象の子は必然的に少数精鋭となって、投資対象とする子の取捨選択は本来起こりやすい。
  父親の立場で見ると、前夫の子は、自分の子を養育する上での余分なコストとなり、取捨選択が迫られた場合の答は一択となる。
母親の立場で見ると、前夫の子も現夫の子も、自分の遺伝子を50%引き継ぐ点は等しく、両方の養育が困難な状況では取捨選択する。
選択要件 前夫の子供より現夫の子供の方が、自分の遺伝子のコピーを増やす可能が高い(=成長した時に繁殖パートナーを見つけやすい=モテそうだ)と判断すると、本能的に母親が前夫の子へ養育資源(手間・情・金銭)を振り向ける投資意欲が減退する。
社会的には母親失格の烙印を押されかねない行動だが ⇩
遥かな祖先から受け継ぐ生殖本能が、意欲減退の感情を引き起こすなら、栄養不足解消が課題だった時代までは一人でも多くが生き残る上で有利だからこそ、自然淘汰されずに生き残っている感情だろう。
それゆえ ⇩
道徳(あるいは法規等の掟)視点で責めたところで問題は本質的には解消せず、今後も繰り返し同様の事件は起きる。

進化論の視点で子殺しを分析

約1万3千年前に人類が農業を発明する前は、何百万年に渡って祖先は狩猟採集生活を送ってきた。
人類は、狩猟採集社会時代は遊動生活を、農業発祥後は定住生活を送った。
だから ⇩
現代人は、何百万年に渡る遊動生活と、最近1万年の定住生活の両方の影響を引きずって生きている。
進化論的に見れば ⇩
現代人に与えた影響は、何百万年の長期に渡る遊動生活が圧倒的に大きいはず。
だから ⇩
狩猟採集民の社会で起こる現象を分析すると、農業発祥前に起きていた社会現象を探るヒントになる。
そのヒントは、現代社会で起きる様々な現象のヒントになり、児童虐待や子殺しの本質的な原因を分析するきっかけとなる。
実は ⇩
農業発明前の生活形態を現在も維持している先住民がアフリカや南米の辺境に僅かに残っている。

 

 

 

農業の確立後は定住生活となり、定住を前提とした農民の社会規範や掟は、個々人の判断が生死と直結した狩猟採集社会時代の遊動生活とは激変したはずだ。

 

農業社会の定住生活で成立した規範(例:様々な宗教)は現代社会に色濃く残っている。

狩猟採集民社会では農業発祥前の、現代社会よりも制約が少ない社会規範で生活している。

様々な先住民の生活を分析すると ⇩

狩猟採集民はそれぞれ隔絶した地域に居住しており、部族ごと生活スタイルは大きく異なる。
とは言うものの総じては ⇩
狩猟採集民の振る舞いは、どうしたら自分の遺伝子のコピーがよく増えるのかを最大限追及する(より動物的な)繁殖行動パターンを示す。
  狩猟採集社会の婚姻形態は、一夫多妻か、一夫一妻と一夫多妻の混合(緩やかな一夫多妻)が多い。
約1.3万年前の農耕社会の成立後は、一夫一妻が進展し、社会制度も一夫一妻を推進する方向性を持った。
  おそらく耕作物が栄養補給量を増やすと乳幼児の死亡率が下がり、一人の女性での多産と養育が可能となって、嬰児を殺さずとも自分の遺伝子を残せるようになった。
多産・養育は長期に渡るプロジェクトなので、女にとって不安定な一夫多妻より、より安定的な一夫一妻の方が遺伝子を残す上で有利だったのだろう。
男にも、自分の遺伝子をより確実に残せる一夫一妻のメリットはあった。

人間関係地域ファイル(HRAF)という機関が、文化人類学が分析対象とする60個の社会での社会生活のデータを集計していた

60社会のうち35社会のデータで子殺しについて触れられていた。
デイリーとウィルソンが35社会を分析したら、子殺しは珍しくないことが判った。
  デイリーとウィルソンは子殺しが起きる3条件を定義し、35社会で該当件数を分析した。
  3条件 赤ん坊が男にとって、本当に自分の子かどうか。
赤ん坊の質(重病や奇形児など)。
現在の環境が子育てに適切か。

分析結果  ⇩

条件 該当数 詳細

20

さらに子殺しの条件を細分化 不倫での妊娠 15  
別の部族の子 3 子供の見た目で自部族の子かを男が判断し、子供の生死を決める。
母親の前夫の子 2 南米のヤノマミ族とオセアニアのチコピア族は、夫が妻に子殺しを要求する。
21 長期的な生存確率が低いと見做される子供は殺害された。
本項目は理由を細分化して分析した。 双生児 14 両方殺す社会と片方殺す社会がある。
未婚の母 14  
早過ぎる出産または子が多すぎる 11 先に生まれた子の生存を優先する。
男の養育支援が得られない 6  
母親が死んだ場合 6  
経済的困窮 3  

現代に残る狩猟採集社会の子殺しの実態

生活 南米のボリビアとパラグアイの国境付近に住む先住民で、狩猟採集生活と焼畑農業を営む。
婚姻形態 男は妻の家族とともに住み、妻の父の権威下に置かれる。
嬰児殺し 女は正式に結婚する前に何人もの男と付き合ったり同棲する。
  結婚前に付き合った男の子供を妊娠すると、非常に高い確率で生まれた子供を殺害する。
正式に結婚した後に産む子供は殺さない。
  出産が迫った女は森で子供を産むが、出産には近親の女たちが立ち会う。
子を産んだ母親に子の生殺与奪権があり、育てるも(土に埋めて)殺すも決断は母親に一任されている。
アヨレオ族の女に、子殺し経験がない女はいない。
  若い女ほど産後の子殺しが多く、年齢を経るに連れて産後の子殺しが減る。
若いほど残された繁殖の機会が多いので、将来の繁殖に不利となりそうな子供は殺すようだ。
生活 南米のブラジルとベネズエラの国境付近の深い森の奥に住む先住民で、狩猟採集生活と焼畑農業を営む。
  100~200人単位の集落が互いに数十から100km離れて暮らし、好戦的で部族間の衝突が頻繁にある。
  集落は200以上に及び、2.5から3万人の人口。
異なる集落は言語が違い、互いに言語での意思疎通は困難。
住居は巨大なドーナツ状の建物で、集落の全員が建物内に住む。
家庭毎に囲炉裏を別に持つが、隣家を隔てる仕切りはなく、したがってプライバシーは乏しい。
戦争の目的は女を巡る争いで、勝者は敗者の部族の女を略奪する。
  成人男性の死因のトップは戦死で、3分の1が戦闘で命を落とす。
外部社会の影響で近年は好戦性が減り、大規模な戦争は1980年代が最後。
婚姻形態 家の形状の影響か、婚姻形態は乱婚的で、不倫や父親不明の子供が生まれるケースも多い。
  不倫発覚時に制裁(寝取られた男とその兄弟から殺さぬ程度の暴力)を受けるのは男だけで、女に咎めはない。
嬰児殺し 子供は母親が出産時に生殺与奪の権を持ち、育成が困難と母親が判断すれば、白アリの巣に埋めて餌食にして殺す。
  NHK2009年製作のドキュメンタリー番組によると、当時生まれた子供の半分が殺されていた。
嬰児殺害を除く乳幼児死亡率は30%以上で、そもそも養育は困難な環境で生活する先住民。
生活 南部アフリカのカラハリ砂漠で狩猟採集生活をする。
  典型的な家族構成は、老夫婦、その娘夫婦(つまり婿取り)、未婚の息子が1~2名(いずれ他集団へ婿入り)、娘夫婦の子供たちの20人にも満たない小家族集団。
カラハリ砂漠は乾いていて、農作物を育てたり、家畜に与える水もなく、家畜は持てない。
  狩猟採集生活で、痩せた砂漠で一か所に留まると周囲の野生の植物をすぐに食べつくして飢えるので、数日ごとに小家族集団で移動生活する。
短期の移動生活のため、定住する村を持たず、住居も自分たちの頭を覆うだけの屋根を草で葺く程度。
婚姻形態 サン人は一夫多妻で、男は自分の狩猟能力で養える限りの人数の妻を持つ。
  実際には大半の男が妻一人がせいぜいだが、中には二人の妻(姉妹を娶る例が多い)を持つ男もいる。
結婚すると夫は、妻の家族集団と同居(婿入り婚)して家族を扶養する義務を負う。
  姦通・同性愛は禁止され、娼婦は存在しない。
嬰児殺し 子供の誕生は歓迎され、子供は家族に熱愛される。
しかし、養育に値しない(不具・奇形)赤ん坊や、まだ育乳が必要な兄弟がいる場合は、母親が殺すよう強制される。
  嬰児殺害の決定がなされると、母親は即時決行しなければならない。
サン人は避妊方法や不受胎や流産を引き起こす方法を知らないため、嬰児殺しよりも長期に渡って性交を慎む避妊法を選択する。
生活 南米のアマゾン川南側の支流のシング―川流域で収量採集生活と焼き畑農業を営む。
  集落が行き来が困難な程度に離れて暮らし、それぞれ母系社会を築いている。
  集落は直径500mの範囲内に血縁ごとに分かれた住居に住む。
異なる集落は言語が違い、互いに言語での意思疎通は困難。
婚姻形態 結婚の在り方、家の構え方が母型の血縁を基本としており、結婚は婿入りとなる。
一夫一妻と一夫多妻もあり、一夫多妻の場合の妻は姉妹であることが多い。
嬰児殺し 出産は男が立ち会い産婆が付き添う。
  双子が生まれた場合は両方とも殺すが、それ以外は殺さない。
不意の妊娠に対して中絶を促す薬草がある。
障害を持つ大人が散見され、障害児だといって殺す対象にはならない模様。
不倫の子供が生まれても、夫は受け入れて子供を育てる。
  離婚する場合は、婿が妻の家を出て、妻の親族が一丸となって子育てをする。
子供は集落全体で育てるという意識があり、母親が再婚しても、子供は義父の虐待を受けない。
離婚した元夫は集落内に住むが、顔を合わせてもトラブルにはならない。

父系社会が持つ子殺しのリスクの軽減策

争点 社会に内在する緊張の緩和策 緩和策の結果の社会 安定度
♀の発情期間が短いため、希少な発情期の♀をめぐって♂が争奪戦を行う。 チンパンジー 優位♂が♀との交尾権を持つ一夫多妻制(♂1:♀30)で秩序を維持し、争奪の緊張を緩和しない。 劣位♂は奪取を目指して鍛錬し、群れ闘争も、掟破りの密通も頻繁に起こる不安定な父系社会。
ボノボ ♀が疑似発情する上、交尾を乱交ゲーム的な社会行動に昇華して、発情♀の争奪戦リスクを下げる。 ♂♀の交尾頭数比が4:10で、♀争奪戦が起きにくい平和な母系社会を築いている。
人類 ♀が非発情期でも♂と交尾することで、♀の供給量を増やす量的緩和策を採る。 ♂♀比は1:1で量的に緩和されたが質的には不満(人気♀は偏在)でやや不安定な父系社会。
(本表は古市剛史『水の風土記 ヒトが「ボノボ」から学ぶこと』,http://www.mizu.gr.jpを参考に作成)

  母系社会が最も緊張が緩和されて安定した社会
 
子殺しや虐待が最も少ない社会と考えられる。
シング―川流域の母系社会の例を見ると、父系社会より嬰児殺しが少ない。
だが ⇩
母系社会と父系社会とが戦争すると、父系社会が勝つ。
  勝つ理由 男が戦士の役割を負うため、男対男での戦闘となる。 左側集約記号 母系社会の戦士は、戦闘現場での必死さで父系社会の男に劣る。
母系社会の戦士は、婿の立場で共同体との血縁関係が薄いため、共同体に対する思い入れが弱い。
父系社会の戦士は、父と息子や叔父・甥といった血縁関係で結ばれているため、共同体に対する思い入れが強い。
この結果 ⇩
母系社会はジャングルの奥地など外界と隔絶した場所にしか成立しない。
現代社会のほとんどが父系社会である理由は、母系社会が暴力で駆逐されたからと推定する。

現代は父系社会から母系社会への移行期なのかもしれない。

国連人口統計局は2050年の特殊合計出生率の世界平均を2.0を予測しており、少子化は全人類的な傾向を見せている。
  平均寿命の伸びと、少子化の進展には、強い相関がある。 遅かれ早かれ世界全域で少子化が進む。
発展途上国も医療・衛生システムの改善で平均寿命が伸び続けている。
もしかすると ⇩
世界の様々な場所で女性指導者が増える傾向にあるとしたら、人々(特に女)が母系社会を目指すべきという無意識下の想念が意識に上りつつあるのかもしれない。


父系社会が備える規範は、少子化が進む社会には耐えられない。

少子化が続いて子供の人口比率が下がると、経済学の基本として子供一人が持つ希少価値が年々高まる。
すると ⇩
少子化局面では、繁殖本能に基づいて自分の遺伝子を残すために前夫の子を殺すという利己的な行為がもたらす社会的損失(インパクト)は必然的に大きくなる(→重罪化する)。
法律や道徳など父系社会の規範が持つ抑止力に限界がある場合 ⇩
子供の虐待や子殺しが父系社会の宿命なら、少子化局面では、リスクを軽減するために母系社会へ移行せざるを得ない。


平安時代の婚姻システムは理に適っていた

紫式部が『源氏物語』で描いた平安時代の「通い婚」(妻問婚)システムは、生活の基盤を女が持ち、男は女の許へ足しげく通うサブ・キャラクタだった。
  「通い婚」システムは母系社会的で、子殺しリスクを下げる意味では合理的なシステム。

週末だけ一緒に暮らす「週末婚」は「通い婚」の現代版との見方もあり、今後は密着度が低い夫婦関係が占める比率が増えて行くのかもしれない。

やがて ⇩

女性が中核となる新しい形態の母系社会の完成度が次第に上がり、社会が成熟して行くのだろう。

飼い慣らし戦略仮説

飼い慣らし戦略仮説 観察 ホモ・サピエンスの♀は、♂を少しだけ優位な立場に置き、弱ハーレム性の「飼い慣らし戦略」を取っているように見える。
仮説 生物の♀は、♂同士の競争の結果で優れた個体を識別し、優れた♂の遺伝子を選択して継承する進化戦略を採用した。
ホモ・サピエンスの♀は、見かけ上で少し優位な立場に♂を置くことで♂の競争を動機付け、競争を促進して優れた個体を識別する進化戦略を採用している。
参考文献 研究者
文献 論旨
R.トリバース
『生物の社会進化』 父親の繁殖投資が大きい種では、♀は♂の投資量を見て♂を選択する。
リスク管理 ホモ・サピエンスの社会では、男を競争させて弱者を排除すると、優れた遺伝子を持つ少数の男が女の間で奪い合いになるリスクがある。
一方でホモ・サピエンスの社会は、遺伝子プールの多様性を確保して種の絶滅リスクを下げるため、主として一夫一妻制度を採用して男の遺伝形質の偏在を抑制する。
一夫一妻制度の信頼性が低下(モラルハザード)すると、人気物件の男の奪い合いリスクが顕在化し、女(母親)は自分が産んだ子の育成に対する男(父親)の投資が期待できなくなる。
 

端的に言うと、女を妊娠させた後、男は子の育成への投資を避けて逃げ、別の女を妊娠させて自分の遺伝子を受け継ぐ子孫を増やす確率を少しでも高めるヤリ逃げ戦略で行動する。
動物の♂は子の育成に関与せず、母子家庭で育成する種が多い。

このリスクに女(母親)は、遺伝子提供者(優れた遺伝子を持つと期待する男)と育成協力者(夫)を分け、育成協力者を欺いて利用する托卵戦術をしばしば実行する。
参考文献 研究者
文献 論旨
J.ダイアモンド
『なぜセックスは楽しいか』 女は自分の発情状況までも完全に隠蔽して男のヤリ逃げ戦略を抑止している。
M.ベリス他 『父方の不一致とその公衆衛生への影響の測定』 Paternal discrepancy (PD)…真実は夫の子ではないケースは、人間社会では1~30%(中央値は3.7%)。
古市剛史 『水の風土記 ヒトが「ボノボ」から学ぶこと』 子を身ごもった妻とその夫を産婦人科で遺伝子調査すると、平均15%の子が夫の子ではない。

父系社会の逆襲

父系社会側からの抵抗

父系社会を善とする思考の持ち主には、母系社会は、戦いを放棄し、プライドが低く、堕落した「劣位社会」に見えて仕方なく、排斥すべき対象となる。
このため ⇩
父系社会から母系社会への移行過程では、父系社会が母系社会を攻撃したくなる。
たとえば ⇩
ロシアは父系性が強い社会で、指導的・暴力的・強圧的なイメージを強く打ち出したがっている。
プーチン・ロシア大統領の主張を聞く限り、プーチンが「西側」と呼ぶ社会を、おそらく軟弱な女系社会と見下している。
だから ⇩
  ロシア社会は、軟弱な西側社会を、厳父として「あるべき姿」へ導く宗教的な使命を感じるのだろう。
だとすれば ⇩
2022年のロシアのウクライナ侵攻の奥深くの動機は、母系社会へ「宗教指導」する神聖行動という信念。
未来の歴史学者の分析は ⇩
2022年のロシアのウクライナ侵攻とは、父性社会による母性社会の排斥運動だと分析しても不思議ない。
父系社会から母系社会への移行が必然なら ⇩
母系社会と父系社会が対立しても、母系社会が駆逐されないメカニズムを考案する分野へ知的リソースを投入せざる得ないだろう。
【参考】 竹内久美子『本当は怖い動物の子育て』(2013)
ジャレド・ダイアモンド『なぜセックスは楽しいか』(1999)
西田正規『人類史のなかの定住革命』(1986)
エリザベス・M・トーマス『ハームレス・ピープル』(1989)
古市剛史『水の風土記 ヒトが「ボノボ」から学ぶこと』(2015)
R.トリバース『生物の社会進化』(1991)
M.ベリス他『父方の不一致とその公衆衛生への影響の測定』(2005)
この記事を書いた人
公政

ヒトの行動原理を、書籍や番組で得た「知恵」「知見」を基に言語化します。
ヒトの行動原理に、ソフトウエア開発畑での設計の仕事で蓄積した知見を組み合わせ、独自視点で編成し言語化した『知恵』を発信しています。
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