応用自在な設計者の生活習慣 -ソフトウエア設計シリーズ「離」②

脳内の情報処理イメージ図 心の和
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意図志向で設計する設計者は、課題に対する多様な対応案を、脳内に内蔵している。
意図志向の設計者は好奇心が強く、新たな情報や状況に接すると、「なぜ?」「何のため?」に興味が向く「思考癖」を持
ち、日々の生活の中で得た情報を再利用しやすいよう圧縮して、無意識に記憶する。
本シリーズは設計と文書化をテーマとし、本記事では設計スキルの向上方法を考察する

ソフトウエア設計シリーズ「離」② 応用自在な設計者の生活習慣 松浦公政 2024年
対象読者
意図志向の設計者が情報を整理する方法に興味を持つIT技術者・システムエンジニア
より高度な設計スキルの内容に興味を持つIT技術者・システムエンジニア
設計スキルの向上方法に関心があるIT技術者・システムエンジニア

ソフトウエア設計シリーズ「離」は、『ITコンサルタントの思考スタイル』『階層的な問題解決』などを情報発信する。
なお本稿に登場する「意図志向」「適用領域」「対処」「対応」などの用語は、本シリーズでは特殊な意味を含めているため、あらかじめ『上流設計の思考プロセス』で用語の意味を確認いただくと読み進めやすい。

意図志向の設計者の情報整理術

意図志向の設計者は、たとえアイディアが次々に湧き出るように見えるとしても、普通の人と特段違った脳を持ってはいない。
  遺伝子の研究成果によれば、人類の遺伝子の個人差は 0.1% 以内。
だから ⇩
遺伝子の脳細胞を作る箇所の設計情報に従って作られる脳神経細胞の数も 0.1% の差に収まる。

すると ⇩

一般人と意図志向の設計者の違いは、脳の使い方の差と考えてよいだろう。
意図志向で設計する設計者は、問題を抽象化して課題を見つける能力に加え、複数の対応案を脳内倉庫を設けて管理する、という脳の使い方をする。
  課題への対応は、目的や用途によって種類が分かれるので、設計者は目的(用途)別に分類した「パターン倉庫」を脳内に作って整理する。
  意図志向の設計者が、脳内に整理するツリー構造のイメージ
  課題への対応の用途別分類
    |
    ├「適用領域」のパターン倉庫
    |    ├  カーナビシステム領域
    |    ├  座席の予約管理システム領域
    |    :
    |    └  対戦型3Dゲーム領域
    |
    └「対処」のパターン倉庫
           ├  最小コスト経路算出方式
           ├  検索高速化用索引設置方式
           ├  3D座標の透視投影変換方式
           :

パターンを適用領域と対処に分けて整理すると、適用領域と対処を組合せる数を増やせるので、アイディアが豊富にあるように見える。

  対応案を分類して整理する能力と、問題の抽象化能力は相互に影響し、対応案の整理が上手な設計者は問題を抽象化する能力も高い。

たいていの設計者は、開発経験がる分野や製品の枠組みを、適用領域のパターン倉庫に記憶している。

適用領域のパターン倉庫のイメージ
分類例 分野・製品のタイトル例
組込みシステム系 空調装置の温度保持
カーナビゲーション(道案内)
情報システム系 銀行の入出金管理
座席の予約管理
ゲーム系 対戦型3Dゲーム
たいていの設計者は開発経験がある製品の「機能の実現方式・手順」を対処のパターン倉庫に記憶している。
  設計者によっては、自らの開発経験の有無に関わらず、既存の設計書や書籍等で学習した情報も、対処のパターン倉庫に記憶する。
対処のパターン倉庫のイメージ
製品・機能の例 実現方式・手順のタイトル例
空調装置の温度保持 PIDフィードバック制御
状態階層モデリング
大量件数のデータ処理 処理並列化での負荷分散
検索高速化用索引設置
データ重複・偏在解消
対戦型ゲーム 登場人物の相互作用検知
3D座標の透視投影行列変換
乱数生成
カーナビゲーション(道案内) ナビゲーション地図更新
最小コスト経路算出
地図データ位置補正
衛星情報位置補正
コンパス方位補正
ネットワーク プロトコル制御
通信相手検証
システム更新 Over The Air
多重割り込み制御 処理優先度制御
稀少資源の排他制御
WindowsシステムGUI メッセージ駆動制御
データの高速整列
ユーザ操作への即時応答
検索支援データ付加
操作履歴データ保存

対処は、適用領域に点在する空白部分を埋める部品なので、適用領域のパターンより多様になる。

門外の適用領域の対処を使う応用力

対処は適用領域内の機能の空隙を埋める部品で、たいてい同じ適用領域の別製品で使った対処を再利用する。
だが適用領域を大きくモデルチェンジする場合、全く別の適用領域の対処を応用すると効率的に対応しやすい。

機能拡張時に別分野の対処を応用するイメージ図

別の適用領域の対処を適用するには、あらかじめ幅広い分野・製品のパターン倉庫を持っている必要がある。

パターン倉庫の高層化

「意図志向」の設計者は、問題を把握したら、適用領域のスタイルに合わせて課題を抽象化する。
適用領域のスタイルに抽象化した課題イメージ図
適用領域のスタイルに抽象化した課題と類似度が高い適用領域を、対応のひな型として適用領域のパターン倉庫から選択する。
類似度が高い枠組みがさほど整合しないイメージ図

選択した適用領域のパターンが、課題とあまり適合しないケースはある。
  パターン倉庫にある対応が適合度の低いパターンばかりなら、そのレベルの対応しか脳内に在庫してない。
在庫する対応案の質の低さは、設計者が解決すべき「高次の問題」となる。

パターン倉庫の品質を上げるには、設計者がより高次の抽象パターンを持つように倉庫の階を高くするしかない。
恋愛に悩む男性に送るアドバイスを「課題」とした例で、倉庫の階を高めるイメージを解説する。

具体的な課題 抽象化した知恵 具体的な対策
共通点を分析 抽象的な方針
倦怠感がある 彼女に恋心が通じない欲求不満のストレスからホルモンのバランスが崩れ、体調を崩している。 欲求不満のストレス解消のため、彼女との仲を進展させる。 自分の恋愛感情を彼女へ伝える。
食欲がない
彼女が気になってしょうがない

普通の友人のアドバイスに従って実行した対応策が失敗したら、その失敗を課題と位置づけ、より高い抽象度の知恵を使って対策を検討する。

より抽象的な知恵で対応するイメージ図

具体的な課題 抽象化した知恵 具体的な対策
共通点を分析 抽象的な方針
恋愛感情を伝えたら断られた 彼女の好みと合わないモノゴトを伝えたり、贈ったりしている。 相手の嗜好を調査し、相手が興味を持ちそうなテーマを使って仲を進展させる。 スイーツ食べ放題バイキングに誘う。
ホラー漫画を贈ったら断られた
怪獣映画に誘ったら断られた
高次に抽象化したモデルは、類似のモデルへ対応を流用しやすい。
  上例の恋愛上手の「相手の嗜好を調査し、相手が興味を持ちそうなテーマを使って」という対処は、様々な場面に応用できる。
  例:新商品企画、製品改良、販売促進企画
上段に積み重ねた「抽象化した知恵」は、設計者の脳内にある「有力な知的財産」になる。
恋愛に限らず何か一芸に秀でる人は、好奇心が強く、新たな情報や状況に接すると、「なぜ?」「何のため?」に興味が向く「思考癖」を持つ。
  この思考癖は、次の効果をもたらす。
  日々の生活で得た情報を再利用しやすいよう目的軸で圧縮して無意識に記憶する。
無意識に蓄積した記憶は、より高次の抽象パターンを形成するように倉庫の階を高める。
意図志向の高度な技術者を目指すには、一芸に秀でる人の生活態度が参考になる。
  日常生活の何気ない状況・現象に興味や好奇心を持つ。
何気ない状況・現象の「なぜ?」「何のため?」を要約して言語化する思考癖を持つ。
普段は興味が持てない分野へ、たまに敢えて突撃する/(勇気を持って)抵抗せず巻き込まれる。
この生活態度が身に付いて無意識に行動するようになると、ふと我を振り返ったとき、自分のパターン倉庫が高層化したことに気付く。

次回は「ITコンサルタントの思考スタイル」を解説します
ソフトウエア設計シリーズの目次はこちら

この記事を書いた人
公政

ヒトの行動原理を、書籍や番組で得た「知恵」「知見」を基に言語化します。
ヒトの行動原理に、ソフトウエア開発畑での設計の仕事で蓄積した知見を組み合わせ、独自視点で編成し言語化した『知恵』を発信しています。
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