「伝わりやすさ」のスキル 3選

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自分の考えや意見を他人に説明したり、説得したいとき、自分の真意が伝わらないことがある。
相手の理解力が伴わないからと諦めるのは簡単だが、自分の説明方法を見直せば改善できるケースも多い。
本記事は、真意が伝わりにくい構造的な原因を分析し、誤解なく説明するスキルの目安を示す。

「伝わりやすさ」のスキル 3選
松浦公政 2022年4月
対象読者 自分の考えや意見が、なかなか相手に伝わらないメカニズムに興味がある方
自分が出した結論に説得力があるかを事前に自己判断する目安に興味がある方
自分の意見に説得力を持たせるために、気を付けるとよいポイントに興味がある方
【参考】伊藤羊一『1分で話せ』
【参考】三谷宏治『伝わる書き方超入門』

自分の意見が相手に伝わらない原因

原因 意思疎通の齟齬そごが起きるメカニズム
意見の未成熟 自分の考えが浅くて未成熟な水準の意見を伝えると、相手は意見の要点を理解できず困ってしまう。
根拠の共有不足 自分の意見が前提とする根拠(または常識)は相手も了解し、共有しているはずと思い込んで説明すると、誤解を招く。
推測機能の副作用 人間の脳には相手の意見の行間を汲んで情報を補完する推測機能があり、その際に自分の経験に照らして情報を自動補完(忖度)するため、理解のギャップを招く。

意見の未成熟

意見の未成熟 自分の考えが浅くて未成熟な水準の意見を伝えると、相手は意見の要点を理解できず困ってしまう。


成熟した意見とは 成熟した意見を「考える」とは、「自分の内にある知識と、外にあるデータ加工しながら、結論を導き出すこと」と大前研一が言ったらしい。
だとすると ⇩
相手に誤解なく意見を伝えるには、自分の中に明確な『結論』が確立していることが前提になる。

結論が確立した状態のイメージとは ⇩

どう行動すべきか判断を迷うことなく、すぐに具体的な行動に移せるように、モノゴトを決定済の状態。


  事実(知識) データ 加工(考える) 結論(行動)
(内にある) (外にある) (脳内処理)
事実やデータを基に「結論」が確立している状態の例
カフェインは眠気を減らす 眠たくなってきた カフェインを多く含む飲料を選択した方が安全に運転できる。 パーキングエリアでコーヒーを買う。
コーヒーはカフェインを多く含む
目的地までの運転所要時間は2時間
炭酸水にはカフェインがない
曇りの後は雨が降ることが多い 厚い雲が掛かっている 予防で雨降り対策した方が安心して買い物できる。 傘を持って外出する。
考えが乏しい例 曇りの後は雨が降ることが多い 厚い雲が掛かっている (リスクを考えない) 手ぶらで外出する。

意見の成熟度の判断目安 結論が確立 自分の中では迷いや不安がなくなるまで、結論を考え抜いてあるか。
考え抜いた結論は、相手が迷わずに行動を起こせる程度に伝えたい事柄が明確化(または具体化)しているか。
× 結論が曖昧 結論の導出が不十分で、考える過程で使った事実やデータを結論に示している。

根拠の共有不足

根拠の共有不足 自分の意見が前提とする根拠(または常識)は相手も了解し、共有しているはずと思い込んで説明すると、誤解を招く。

日本社会は、自分のげんで相手が傷つくのを恐れて直接的に伝えることを避け、婉曲えんきょくに意見を伝えたがる傾向が強い。
この影響で ⇩
日本社会で存在価値を得るには、情報発信者の真意を汲む高度な能力(忖度そんたく力)が受け手に要求される。
たとえば ⇩
知識 データ 加工(考える) 結論(行動)
カフェインは眠気を減らす 眠たくなってきた カフェインを多く含む飲料を選択した方が安全に運転できる。 パーキングエリアでコーヒーを買う。
コーヒーはカフェインを多く含む
目的地までの運転所要時間は2時間
炭酸水にはカフェインがない
 
日本社会での典型的な説明は、この段階に止める。 結論は相手の判断に委ねる。
その結果 ↓
相手は安価なコーヒーではなく、高価な栄養ドリンクを買う場合もある。
意図ズレのリスクを回避するには ↓
成熟した結論を持ち、相手が紛れない行動に結びつける「結論」を伝える。
  結論があるのに相手が期待した行動をしないと、情報発信者はストレスが溜まる一方。

忖度力そんたくりょく要求社会(日本)のメリット/デメリット

メリット デメリット
受け手側に理解しようとする気運が生じ、少ない情報量でも発信者の意図を解釈できるように、社会の標準・不文律・掟・作法などが確立しやすい。 社会的な標準や作法は、暗黙知化する強い傾向を持つ結果、新規参入者の参入障壁となったり、社会の柔軟な発展を停滞させる。
自分の忖度力に自信がある人ほど自分の意見の真意が伝わらない原因を、相手の忖度力不足と感じやすく、個人の情報発信力の進展を阻害する。
  ↓ 相手に高度な忖度力を期待するとしても
意見を伝える前提として、情報発信者の結論が明確になっている必要がある。
↓ だが現実には
相手の忖度力不足以前に、そもそも情報発信者側の結論が未確立なケースが少なくない。


「伝える」とは 相手の頭の中に、自分が伝えたいことの骨組みや中身を『移植していく』作業。 (【引用】伊藤羊一『1分で話せ』第2章 1分で伝える)


真意が伝わるかの判断目安 明確な期待 自分を意見を伝えたら、相手は紛れなく期待通りに行動を実行できる状態になるか。
× 曖昧な期待 相手の忖度壁体や自分の遠慮などの理由で、相手に判断の大半をゆだねてないか。

推測機能の副作用

推測機能の副作用 人間の脳には相手の意見の行間を汲んで情報を補完する推測機能があり、その際に自分の経験に照らして情報を自動補完(忖度)するため、理解のギャップを招く。


人間の脳には、情報の不足がある時に自動的に「隙間を埋める」「行間を読む」便利な推測機能がある。  (【参考】ネイサン・レンツ『人体、なんでそうなった』

たとえば ⇩

根拠・理由 受け手の脳が自動的(勝手)に隙間を埋める 主張
雨が降りそうだから (傘があれば雨をしのげるので)、 傘を持って行く。


通用範囲(知識・常識の共有範囲)が広い根拠・理由なら、主張が誤解を受けるリスクは小さい。
しかし ⇩

通用範囲が狭い根拠・理由だと主張が「曖昧」になり、受け手の解釈の幅が拡がって推測機能が暴走しやすい。

根拠・理由 受け手が自動的(勝手)に埋めた隙間の例 主張
雨が降りそうだから (憂鬱な気分に陥らないように仕事したいので)、 キャンディを舐める。
雨が降りそうだから (ボイストレーニングでハイB♭の声を出せるように)、 キャンディを舐める。
雨が降りそうだから (雨だれの音を聞きながらキャンディを舐めるのが好きだった亡き母を偲んで) キャンディを舐める。


通用範囲が狭い根拠・理由ほど、脳が備える推測機能の暴走起点となるため、容易に誤解を生む。

誤解を生むかの判断目安  相手が持つ常識を把握 伝える対象者の知識水準・常識水準を高い精度で把握しているか?
× 自分の常識を押し付け 相手の水準に合わせて過不足ない説明方法にカスタマイズできているか?

誤解を減らすコミュニケーションスキル 3選

結論を出すように考えるスキル

結論を出すための「考える」行動には深さのレベルがあり、次の階層となる

行動 考える「深さ」のレベル 出す結論
熟慮する 無理やり仮の結論を出す 主張と根拠に分ける 根拠に自己質問
・だから何?
・本当か?
反対派にも根拠の意味が伝わる?
下左向き大小矢印
考える 無理やり仮の結論を出す 主張と根拠に分ける 根拠に自己質問
・だから何?
・本当か?
 
下左向き矢印
悩む 無理やり仮の結論を出す 主張と根拠に区別できない   ×
下左向き大小矢印
論外 無理やりにも仮の結論を出せない =自分の望み(欲求)を分かってないレベル
下左向き矢印  

⇩ 導出した結論の充分度を判断する目安

意見には(仮でもよいが)結論があるか?
意見を主張と根拠に区別して語れるか? 
根拠へのイジメ質問(だから何?  本当か?)に真摯に応えられるか?
意見を異にする相手でも、根拠を置く理由・意味を理解できるか?

説得力を持つように論理の構造を組み立てるスキル

主張は「一般論」でないと本質を突かないが、一般論だけでは抽象的過ぎて伝わらない。

⇩ 説得力を持つ意見とは

自分の主張が明確で、かつ説得する根拠とスムースに繋がっている。
 └ 根拠として、主張を裏付ける「実例」「事実」「理論」などを示すと、具体性が増して説得力が上がる。

相手(受け手)は、基盤となる根拠が複数ある主張には説得力を感じる。

理想的な根拠の数は3件で、根拠が多い場合は重要な3~4件に絞り込んでよい。
  説明の前振りの文言 覚える意欲 分析
「その理由は3つあります。ひとつめは、・・・」 わく 人間が集中して理解できる量は3件程度。
× 「その理由は5つあります。ひとつめは、・・・」 わきにくい

 

根拠のツリーのピラミッド構造図
根拠のツリーに基づく説明文テンプレート
「私の主張は○○です。その理由は3つあり、一つ目は・・・。二つ目は・・・。三つ目は・・・」

根拠のツリーの例

根拠のツリーの具体例の図
根拠のツリーの具体例

主張と根拠を意味的に繋ぐスキル

ロジカルとは 主張と根拠の意味が繋がっていること

  根拠・理由 主張 意味の繋がり 隠れた(明示されてない)根拠
雨が降りそうだから 傘を持って行く 傘があれば雨をしのげるため。
雨が降りそうだから キャンディを舐める × 気圧低下に伴う耳の障害がキャンディを舐めると緩和されるため。
雨が降りそうだから キャンディを舐めるとたいてい雨が降らなかったという個人的経験に基づくため。




主張の多くは、隠れた根拠に基づいている。
根拠の共有不足 自分の意見が前提とする根拠(または常識)は相手も了解し、共有しているはずと思い込んで説明すると、誤解を招く。
とは言うものの ⇩
隠れた根拠があっても通用する場合はあり、「隠れた根拠がある」=「意味が繋がらない」という単純な図式ではない。

隠れた根拠 通用範囲例
×
傘があれば雨をしのげる。 年間降雨日が10日以上ある地域 砂漠の小さな集落
キャンディを舐めると、たいてい雨が降らなかったという個人的経験。 左記のジンクスを知っている家族・知人 一般人

つまり ⇩

「適切な」根拠は、説明したい相手と状況次第で変化する。 適切/不十分 とを分ける絶対的な境界は存在しない。

だからこそ ⇩

相手 準備 対策
対話・会話 相手の理解状況や顔色をリアルタイムに監視。 説明方法を柔軟に変更。
読者・聴衆 想定読者・聴衆の知識水準・常識水準を把握。 平均的な理解力水準よりも低めに説明水準を設定し、過剰なほど根拠説明を含める。

説得力を持たすために気を付けるポイント

会話・講演等で相手を直接説得する場合

説明は、相手の集中力が途切れる前に終わるように短くする。 主張の背景や経緯の長い説明は避け、相手から質問がある場合によどみなく説明できれば十分。
自分の主張はロジカルに考えた正しさがあるので、説得力がある、は誤解。 (ロジカルに考えた主張 ⊃ 正しさ) ≠ 説得力
私の主張は、相手には他人事になりやすい。
「正しさ」で主張をアピールしても伝わらない。
(私たちの問題・課題 + ロジカルに考えた主張) = 説得力
私たちの問題・課題と取り上げると、相手も自分事と感じて、集中力を持って聴取する。


文書等で多数の相手を説得する場合。 (【参考】三谷宏治『伝わる書き方超入門』

説明文は、相手の集中力が途切れる前に終わるように短くする。 文章先頭に「概要」or「主張の要旨」or「予告」を置いてそこだけ読めば済むようにし、詳細な説明文は、字下げするなど、物理的に分ける。
「事実」と「思考」、「推論」と「感想」を分けて示せ。 事実⇔思考 推論⇔感想 の区別 明確 情報発信者が知的な印象で威厳を与える。
不明確 情報発信者の知性に疑問を感じたり、信頼。度に不安を待たれる。
やさしい言葉を使え(漢語より和語、漢字よりひらがな)。 説明文なら、音読したとき聴いている人が判る言葉を使え。
この記事を書いた人
公政

ヒトの行動原理を、書籍や番組で得た「知恵」「知見」を基に言語化します。
ヒトの行動原理に、ソフトウエア開発畑での設計の仕事で蓄積した知見を組み合わせ、独自視点で編成し言語化した『知恵』を発信しています。
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